それで普及のおつもりですか?〜2、ギャラリーとプレイヤー〜
普及とは、対象ジャンルが一定のポジディブな評価の下に社会的に反復されることである。そして、どのような形での反復がされるようにしたいのか、ここが重要である、との前回の内容です。今回は、この話をもう少し掘り下げていきましょう。
既に麻雀の例を使いほぼネタバレしてますから先に結論めいたことを言いますと、反復形式には大きく2つありまして、それは「実行」と「鑑賞」です。言い換えれば、「プレイヤー」となるか「ギャラリー」となるか、この二種類があります。
例えば野球を自分でやる人もいますが、どちらかと言えば「野球ファン」と言えばプロ野球を見るのが専門、という方の方が多いでしょう。もちろん野球を自分でやる人=プレイヤーも、ほとんどの人はプロ野球を見るはずで、その意味で野球の社会的反復形式は、鑑賞が多く、その中に実行が含まれている、と言えます。これは世の中のほとんどの文化や趣味の形でもありまして、例えば音楽でも絵画でも他のスポーツでも、まず見る人が多く、その中にやるが含まれています。
またまた例に出せば、麻雀については、ほとんどが実行であり、その中で鑑賞がごくごくまれになされている、と言えます。
さて我らが囲碁はどうか、と言えば、これは明らかに麻雀と同じで、やる人の中に見る人が一部存在している、という状態なのは皆さんもご存知でしょう。例えば、碁が好きで打つ人は周りにいても、プロの碁を見るのが好き、という人はなかなか少ないでしょう。
このように単に反復と言ってもそこには2つの形式があるわけでして、「普及活動」の目的に合わせた作戦が重要になります。あなたが一緒に碁を打つ仲間を増やしたいなら、それはプレイヤーを増やすことが目的となります。プロのする普及活動は、当然その目的はギャラリーを増やすことでしょう。もちろん、プレイヤー増加とギャラリー増加は密接な関係を持っていて、野球の例で言えば、テレビで野球を見た子供が自分でもやってみたくなる、ということもありますし、また最初はでやるだけだったのが、上達のためにプロのプレーを見るようになる。そんなこともありましょう。こうした双方向作用によりギャラリーとプレイヤー共に増加し、ジャンル全体が活性化するのはよくあることです。問題は、このような戦略の下に「普及活動」をしているかという点でして、少なくとも囲碁の場合、ただなんとなくプレイヤーを増やす、あるいはプレイヤーを強くする、そうした活動だけが「普及活動」と呼ばれ、ギャラリーを増やすであるとか、ギャラリー増加を介したプレイヤー増加戦略とかがまるで視野に入っていませんでした。最近こそ、囲碁フェスのようなルールを知らない人も楽しんでもらえるようなイベントも開催され、また先日の本因坊戦がニコニコ生中継で放送されたりするようになりましたが。ちなみにニコ生につき、囲碁を知らない人達も見てくれたのが嬉しいとの三村智保プロの言ですが、これがギャラリーを増やすということです。
とりあえず囲碁界も、普及にもギャラリー増加とプレイヤー増加の2つがあることに気づき実行しつつあるようで、それは素晴らしい前進と言えます。しかし、あえて苦言を呈しますが、まだ戦略的に浅すぎる。ギャラリーにもプレイヤーにも、さらに複数の形態があります。それを見越した活動ができていない。次回は、この複数の形態について書きます。